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安全と自然を守る!法面緑化の目的・メリットとは

 
道路や造成地、河川敷などの傾斜地で見かける「法面(のりめん)緑化」。
近年では、災害対策やヒートアイランド現象の緩和、生物多様性の保全といった観点からも注目されています。

本記事では、法面緑化の目的や効果、おもな工法、使用される植物の種類について解説します。
 
 

1.法面緑化とは?
 

法面緑化とは、道路や河川、造成地などの傾斜地に植物を植えて、緑化することを指します。
おもに土壌の浸食防止や崩落対策、景観の美化を目的として行われるもので、傾斜地に植物を植えることで、土を固定し、風雨による土壌の流出や崩壊を防ぐ効果があります。
 

2.法面緑化の目的と効果
 

2-1.土壌浸食の防止
 

法面は傾斜があるため、雨水による表面の土壌流出が起こりやすく、長期的には地盤の不安定化や崩落のリスクが高まります。
緑化を行うことで、植物の根が地中に張りめぐらされ、土壌をしっかりと固定。
雨や風による侵食を抑え、斜面の安定性を確保します。

また、草や芝が雨粒の衝撃を和らげるため、表土の流失も軽減されます。
これにより、土木構造物や周辺施設の安全性向上にもつながります。
 

2-2.景観の美化
 

法面緑化は、人工的なコンクリート面に比べて自然な風景を作り出し、地域の景観価値を大きく高めます。
とくに住宅地や公園、道路沿いでは、緑のある景色が心地よさや安心感を与え、地域住民の満足度向上にも寄与します。

四季折々の植物を取り入れることで、季節感を演出できる点も魅力です。
無機質な斜面を生きた緑に変えることで、まちの印象そのものをやわらげ、都市環境に潤いをもたらします。
 

2-3.生物多様性の促進
 

法面緑化に在来植物や多様な植生を取り入れることで、小動物や昆虫、鳥などが集まりやすい環境が整い、地域の生態系が豊かになります。
都市化により失われつつある自然の「つなぎ目」として機能することもあり、緑のネットワークの形成にも貢献します。

また、昆虫類が増えることで受粉が促進され、さらなる植物の生育にもつながる好循環を生み出します。
生物にとっての「すみか」となる緑化は、環境保全の視点でも非常に意義があります。
 

2-4.ヒートアイランド現象の緩和
 

都市部ではアスファルトやコンクリートの蓄熱により、周辺温度が上昇するヒートアイランド現象が深刻な課題となっています。
法面緑化により植物が地表を覆うことで、日射の反射や蓄熱が抑えられ、蒸散作用による冷却効果も得られます。
これにより周囲の気温を下げ、快適な都市環境の維持に貢献します。

また、緑が多い場所は日陰をつくることでも温度を下げる役割を果たし、熱中症リスクの軽減にもつながります。
 
 

3.法面緑化の方法
 

法面緑化は、斜面の安定化と景観向上を目的として行われるもので、使用される植物や工法によっていくつかの種類に分かれます。

おもに「種子散布」「植生マット・植生シートの敷設」「張芝工法」「吹付工法」「客土工法」などがあります。
 

3-1. 種子散布
 

斜面に緑化用の種子を直接撒く方法で、比較的コストが安く、広範囲に対応可能です。
風雨により種が流される恐れがあるため、発芽までの養生が重要です。
施工前には地表の整地や肥料の混合を行い、発芽率を高めます。養生ネットなどで飛散を防止することもあります。
 

3-2. 植生マット・植生シートの敷設
 

あらかじめ草種や芝生が植え込まれたマットやシートを法面に敷く方法です。
施工が簡便で、斜面に均一な緑を形成しやすく、初期の浸食防止効果も高いのが特徴です。
マットの裏面には不織布や麻などの素材が使われ、土壌との密着性も確保されます。
根付くまでの期間も比較的短く、施工後の管理も容易です。
 

3-3. 張芝工法
 

法面に芝生(主に高麗芝や野芝)を1枚ずつ貼り付けていく方法で、美観が良く、根がしっかりと張るため法面の安定にも効果的です。
芝を貼るためにはある程度の斜面勾配(一般的には30度以下)が適しており、勾配が急な場所では別の工法と併用することがあります。
根付くまでの水やりやメンテナンスが重要です。
 

3-4. 吹付工法
 

緑化用の種子とともに、肥料・粘着剤・木質繊維などを混ぜたスラリー状の混合材を法面に吹き付ける工法です。
急斜面にも対応でき、広い面積に短期間で施工が可能です。
保水性や種子の定着力を高めるための添加材の配合がポイントで、施工直後から土壌の侵食を抑える効果があります。
地山の安定性が低い場合には金網などの補強材を併用することもあります。
 

3-5. 客土吹付工法
 

土壌条件が悪い斜面に対して、植物の生育に適した客土(良質な土)を混合し、種子や肥料とともに吹き付ける方法です。
やせ地や岩盤、コンクリート覆面などの場所でも緑化が可能となり、発芽率が高く、安定した緑化が期待できます。
コストはやや高めですが、効果は非常に高いといわれています。
 

3-6. 植樹・植栽
 

芝や草花による短期的な緑化だけでなく、樹木や低木を植栽することで中長期的な緑の定着を図る方法です。
樹木の根が地中深くまで伸びることで、斜面の安定化や生態系の形成にもつながります。
ただし、苗木が育つまでには時間がかかるため、草本類との組み合わせで段階的な緑化を行うのが一般的です。
 

3-7. 自然回復法
 

人工的な植栽を行わず、周辺の自然植生が徐々に侵入・定着するのを促す方法です。
環境への負荷が小さく、生物多様性の維持に適していますが、緑化までに時間がかかり、計画的な管理が必要です。
あらかじめ地形整備や保護ネット設置などを行うことで、自然回復の効率を高めることも可能です。
 
 

4.法面緑化に使われる植物
 

法面緑化に使用される植物は、土壌の流出を防ぐ、短期間で定着する、維持管理がしやすいといった観点で選ばれます。
また、地域の気候や日照条件、目的(景観重視・生態系保全など)によっても使われる植物は異なります。
 

4-1. 草本類(多年草・一年草)
 

・コウライシバ・ノシバ
芝生の中でも法面緑化によく用いられる代表的な植物です。
根が密に張ることで土壌を安定させる力があり、芝張りや芝マットで使用されます。
乾燥や暑さに強く、日当たりの良い斜面に適しています。

・クリーピングレッドフェスク
寒冷地向けの芝草で、陰地ややせた土地にも適応します。
生育が比較的ゆるやかで、手入れも簡単なため、管理コストを抑えたい場所に向いています。

・メヒシバ・スズメノカタビラ
自然侵入を促す自然回復法では、これらの在来草本が定着する場合もあります。
繁殖力が高いため、管理目的に応じて導入されることもあります。
 

4-2. マット・シート用植物
 

・ヤマトシバ・イワダレソウ
地被植物として植生マットに用いられることが多く、地面を這うように広がり、短期間で緑化できます。
イワダレソウはとくに乾燥や踏圧にも強く、景観性も良好です。

・センチピードグラス
暑さに強く、病害虫にも比較的耐性があり、放任管理でも比較的安定した緑化が可能です。
成長がゆっくりなため、刈り込み頻度が少なくて済む点も魅力です。
 

4-3. 在来植物・野草類
 

・ススキ・オギ・チガヤ
在来の草原植物で、法面の自然回復や景観緑化に適しています。
根が深く張り、斜面を安定化させる力に優れます。
野性的な風合いも魅力で、生態系保全型の緑化で多用されます。

・ワレモコウ・カワラナデシコ・ノアザミなど
日本在来の多年草で、花期が長く景観性に優れるため、法面に彩りを加えたい場合に適しています。
地域の気候と調和した植生形成が可能です。
 

4-4. 低木・樹木
 

・ヤマツツジ・ユキヤナギ・コデマリ
景観を彩るとともに、根系が地中にしっかり伸びて斜面を安定化させます。
法面の中腹や裾部分に植えることで、浸食防止と景観向上を同時に図ることが可能です。

・アカマツ・クロマツ・ヤマザクラ・コナラなど
樹木を取り入れることで中長期的に自然林のような植生回復が期待できます。
ただし、成長には時間がかかるため、草本類との組み合わせが基本です。
 
 

まとめ
 

法面緑化は、単なる景観対策にとどまらず、土壌の浸食防止や災害リスクの低減、生態系の保全、都市環境の改善といった多面的な効果を持つ重要な取り組みです。

目的や斜面の条件に応じて、さまざまな工法や植物が選ばれ、柔軟に対応できる点も魅力です。
とくに近年では、在来植物や低木・樹木を活用した自然との共生型緑化が注目されており、持続可能な地域づくりにも大きく貢献しています。

安全性と美しさを両立させる法面緑化は、これからのインフラ整備やまちづくりに欠かせない要素といえるでしょう。